東京地方裁判所 平成3年(行ウ)238号 判決 1992年5月12日
原告 岩田薫
原告 大嶋健司
被告 運輸大臣 奥田敬和
右指定代理人 井上邦夫
<ほか四名>
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成三年八月二二日付けで日本鉄道建設公団に対してした北陸新幹線軽井沢・長野間の工事実施計画の認可を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 日本鉄道建設公団(以下「公団」という。)は、昭和六〇年一二月二五日被告に対し、全国新幹線鉄道整備法九条一項に基づき北陸新幹線高崎・小松間の工事実施計画の認可の申請をした。
(二) 公団は、右の北陸新幹線高崎・小松間の工事実施計画を高崎・軽井沢間と軽井沢・小松間とに分割し、平成元年六月二三日被告に対し、同項に基づき右高崎・軽井沢間の工事実施計画につき認可の追加申請をした。
(三) 公団は、平成三年八月九日被告に対し、右の北陸新幹線軽井沢・小松間の工事実施計画を軽井沢・長野間と長野・小松間とに分割し、同項に基づき右軽井沢・長野間の工事実施計画(以下「本件工事実施計画」といい、これに係る新幹線鉄道の路線を「本件新幹線」という。)につき認可の追加申請をした。
(四) 被告は、同月二二日公団に対し本件工事実施計画の認可(以下「本件認可」という。)をした。
2 原告らは、本件工事実施計画の定める線路の位置に所在する土地を賃借し、又は右線路の位置に近接する土地上に居宅を所有している。
3 本件認可は、以下のとおり違法である。
(一) 本件新幹線は、従来いわゆるミニ新幹線として建設されることが決まっていたところ、平成二年一二月政府、与党の話合いにより標準軌新線(いわゆるフル規格)として建設されるとともに、これと並行する在来線はJRの経営から分離することとなったが、その際大蔵省は、右の経営分離について地元の了承を取り付けるまでは予算の執行をしないとの方針を採った。
これを受けて、長野県知事は、平成三年六月地元同意書なる文書を被告に手渡したが、右同意書は、関係市町村の議会の議決を経ず、非公式の全員協議会という場で採決を取らせ、その結果に基づいて作成されたもので、法的根拠のないものであるから、無効である。
そうであるとすれば、そのような無効な同意書に基づいてされた本件認可は、違法である。
(二) 右(一)のとおり、本件新幹線が標準軌新線として建設され、開業した後においては、これと並行する在来線はJRから分離され、地元地方公共団体の手で設立される第三セクター方式の会社によって運営されることとなるが、右会社は、このうちでも利用者の少ない軽井沢・篠ノ井間のみを、しかも線路等の施設の有償譲渡を受けて引き継ぎ、その営業に当たらざるを得ないこととなる。その結果、右会社の収支は赤字となり、そのような経営が続けば、右区間の廃止が問題とされるのは必至であるが、これが廃止されると、沿線地域の通勤、通学による利用者が多大の不利益を被ることになる。
したがって、本件認可は、これに基づき本件新幹線が標準軌新線として建設されることにより鉄道輸送の公共性を無視する結果を招くから、違法である。
(三) 本件新幹線の建設について、関係市町村は、厖大な額の負担金の醵出を求められており、さらに右(一)のとおり並行する在来線を運営する第三セクター会社に対しても同様の醵出を求められることが予測される。
そうであるとすれば、右による財政的負担は、やがて右関係市町村の一般会計を圧迫し、地方財政法に抵触する結果を招くものであるから、そのような事態を招来する本件認可は違法である。
(四) 原告らほか四名は、平成三年六月一三日公害等調整委員会に本件新幹線の標準軌新線による建設工事の差止めを求める調停の申請をした。これに対する調停の実質的な手続は同年九月一〇日に開始されたところ、本件認可は、前記1(四)のとおり同年八月二二日右調停の申請の趣旨を無視して早早にされたものであるから、違法である。
よって、原告らは、本件認可の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される。
2(一) 全国新幹線鉄道整備法は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もって、国民経済の発展と国民生活領域の拡大に資することを目的とする(同法一条)。被告は、鉄道輸送の需要の動向、国土開発の重点的な方向その他新幹線鉄道の効果的な整備を図るため必要な事項を考慮し、政令で定めるところにより、建設を開始すべき新幹線鉄道の路線(以下「建設線」という。)を定める基本計画を決定し(同法四条)、これをしたときは、公団等に対し、建設線の建設に関し必要な調査を行うべきことを指示し(同法五条一項)、建設線につき営業を行う法人(以下「営業主体」という。)及び建設を行う法人(以下「建設主体」という。)を指名し(同法六条一項)、右調査の結果に基づき、政令で定めるところにより、建設線の建設に関する整備計画を決定しなければならない。そして、被告は、右整備計画を決定したときは、建設主体に対し、これに基づいて当該建設線の建設を行うべきことを指示し(同法八条)、この指示を受けて、建設主体が、建設線の建設を行おうとするときは、運輸省令で定める事項を記載した建設線の工事実施計画を作成し、被告の認可を受けなければならず、また、工事実施計画の変更をするときは被告の変更認可を受けなければならない(同法九条一項)。
(二) 公団は、形式的には日本鉄道建設公団法に基づき設立された国から独立した法人であるが(同法二条)、公団の資本金は全額政府出資に係るものであり(同法四条)、その総裁及び監事等の公団の役員の任免は被告がこれを司り(同法一〇条、一三条)、その業務方法書及び毎年度の事業計画は被告の認可を受けなければならず(同法二四条、二六条)、その財産目録、貸借対照表及び損益計算書は被告の承認を得なければならず(同法二七条)、借入金及び鉄道建設債券の発行には被告の認可を受けなければならず(同法二九条)、政府は一定の限度において公団の債務を保証することができ(同法二九条の二)、公団の長期借入金及び債券の償還計画にも被告の認可が必要とされ(同法三〇条)、重要な財産の処分については被告の認可が必要とされ(同法三二条)、役員及び職員に対する給与及び退職手当の基準については被告の承認を受けなければならない(同法三三条)。公団の財務及び会計に関して必要な事項の定めは運輸省令に委任されており(同法三四条)、平素の業務についても公団は被告の監督に服し、また必要があるときは被告は公団に対し監督上必要な命令をすることができるものとされ(同法三五条)、被告は必要があると認めるときは公団に対しその業務及び資産に関し報告をさせ、又は事務所その他の事業所に立入検査をすることができる(同法三六条)ほか、不動産登記法その他政令で定める法令については政令で定めるところにより公団は国の行政機関とみなす(同法四〇条)旨の規定がある。
(三) 右(二)のような、その設立、役員等の任免、平素業務の遂行、そのための財政上の各種措置等から実質的にこれを見れば、公団は国と一体性を有するものというべきである。
また、右(一)のような新幹線鉄道建設に関する法制からすれば、新幹線鉄道の建設は、公団が自主的、自発的に計画して行うものではなく、被告が国民経済の発展と国民生活領域の拡大という高度に政治的な見地からこれを決定した上、その根幹的事項を基本計画及び整備計画で定めて公団にこれを指示し、その指示を受けて公団が工事実施計画を作成し、建設工事を行うものであるから、公団は、機能的には被告の下部機関を構成するものということができる。
そうであるとすれば、全国新幹線鉄道整備法九条の定める工事実施計画の認可は、いわば上級行政機関としての被告が下級行政機関としての公団に対し、その作成した工事実施計画の整備計画との整合性等を審査してする監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互間の行為と同視すべきものであり、これが行政行為として外部に対する効力を有するものでないことは明らかであるといわなければならない。
3(一) また、工事実施計画の認可の効力についてみても、全国新幹線鉄道整備法九条の定める工事実施計画は、前記2(一)のとおり、被告が決定した整備計画に基づき、建設線の建設の指示を受けた公団が、路線名、線路の位置(縮尺二〇万分の一の平面図及び縮尺横二〇万分の一、縦四〇〇〇分の一の縦断面図をもって表示する。)、線路延長、停車場の位置、車庫施設及び検査修繕施設の位置、工事方法、工事予算並びに工事の着手及び完了の予定時期を定めて作成される(同条一項、同法施行規則二条一項各号)ものであり、本件工事実施計画に記載された縮尺二〇万分の一の線路の位置平面図においては、約一ミリメートル内外の線をもって線路の位置が表示されているが、これを現実の土地に引き直すと幅約二〇〇メートルの帯状の範囲内において線路の位置が決定されているに過ぎず、右範囲内の土地のうちのどの部分に実際に線路が設置されることとなるかは確定されておらず、具体的な線路の位置は、工事実施計画の認可を経た後に、公団のする測量等の結果によって定まる。したがって、当該計画の遂行上将来いかなる土地が新幹線鉄道敷の範囲となるか、また、いかなる者が右計画に利害関係を有することとなるかは、必ずしも、工事実施計画の認可によって具体的に確定しているというものではないから、右の認可は、それ自体直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を有するものではない。
(二) もっとも、同法一〇条、一一条によれば、被告は、右認可に係る新幹線鉄道の建設に要する土地で政令で定めるものについて必要があると認めるときは、行為制限区域を指定することができ、右制限区域内においては、何人も土地の形質を変更し、又は工作物を新設し、改築し、若しくは増築してはならないものとされているが、これとても、右の行為制限区域の指定によって生ずる効果であって、工事実施計画の認可によって直接に生ずる効果ではない。そのほか、右認可によって国民の権利義務に直接法的影響を及ぼす規定は存在しない。
4 そうすると、本件認可は、いずれにせよ行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たらないから、その取消しを求める本件訴えは不適法である。
三 被告の本案前の主張に対する原告らの反論
1 本件認可を得た公団が、本件新幹線の建設に着工した場合においては、その建設費のうち、第一種工事(線路その他の主体等の鉄道施設に係わる工事)に係る費用の一〇パーセントを県が、第二種工事(停車場その他の地域の便益に密接に関連する鉄道施設に係わる工事)に係る費用の二五パーセントを県(そのうちの九〇パーセント)並びに停車場の設置される市及び町(そのうちの一〇パーセント)が、それぞれ負担することとされている。
地方公共団体の住民は、その地方公共団体の課する地方税の納税義務者であり、その生活は地方公共団体の財政と関わりを持つ。このことと、地方自治法が、普通地方公共団体の財務につき住民監査請求や住民訴訟の制度を設けている趣旨とを併せ考えると、地方公共団体の住民は、その地方公共団体の財政運営や税の使用方法を監視し、これが正当であるかどうかを確認する権利を有するというべきである。
そうすると、右のとおり関係地方公共団体が建設費の一部を負担することを前提とする本件認可は、その住民の有する地方公共団体の財政運営等を監視する権利に影響を及ぼすものである。
2 新幹線鉄道の建設工事は、① 被告による建設の指示、② 公団による工事実施計画の作成、③ 右工事実施計画の認可の申請、④ 被告による右工事実務計画の認可、⑤ 被告による工事の指示 の各段階を経て着工されるところ、行政上の認可処分は右④のほかにないから、本件認可は、公権力の行使による事実上の行為に当たるものと解すべく、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる。
3 また、原告らは、本件認可により、その土地賃借権を失い、又は新幹線開業後にはその居宅を騒音にさらされるという被害を受けることとなる。したがって、本件認可は、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を持つものであるから、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる。
四 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は知らない。
3 同3の冒頭部分の主張は争う。
(一) 同(一)のうち、本件新幹線はいわゆるミニ新幹線として建設されることが決まっていたが、平成二年一二月政府、与党の話合いにより標準軌新線(いわゆるフル規格)として建設されることとなったとの事実は否認し、長野県知事が原告主張に係る文書を被告に手渡したとの事実は知らない。主張は争う。
(二) 同(二)の主張は争う。
(三) 同(三)の事実中、国が地方公共団体に対し、全国新幹線鉄道整備法一三条二項に基づき本件新幹線の工事に関し財政上の措置を講ずることを要請したことは認め、その余は知らない。主張は争う。
(四) 同(四)の事実中、原告らほか四名が平成三年六月一三日公害等調整委員会に本件新幹線の標準軌新線による建設工事の差止めを求める調停の申請をしたことは認める。主張は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 本件訴えの適否について
1 被告は、本件認可は、行政機関相互間の行為と同視すべきものであって外部に対する効力を有せず、また、国民の権利義務に直接法的影響を及ぼさないから、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法三条二項)に当たらない旨主張する。そこで、以下検討する。
2(一) 日本鉄道建設公団法によれば、公団は、鉄道の建設等を推進することにより、鉄道交通網の整備を図り、もって経済基盤の強化と地域格差の是正に寄与するとともに、大都市の機能の維持及び増進に資することを目的とする法人とされ(同法一条、二条)、資本金を有し(同法四条一項)、特殊法人登記令の定めるところにより登記しなければならないものとされ(同法五条一項)、法人の不法行為能力及び住所に関する民法四四条及び五〇条がこれについて準用されるものとされている(日本鉄道建設公団法七条)。
右各規定によれば、公団は、固有の法人格を有する、国又は地方公共団体とは別個独立の法人であり、これ自体が国又は地方公共団体の機関を構成するものではない。
(二) しかしながら、同法によれば、公団と政府又は被告との関係について、被告は公団を監督し、同法を施行するため必要と認めるときは公団に対しその業務及び資産の状況に関し報告をさせ、又はその職員に業務の状況等を検査させることができるものとされ、公団は、その業務については、業務開始の際業務方法書を作成し、これについて被告の認可を受けなければならず、その財務及び会計については、毎事業年度、その開始前に事業計画、予算及び資金計画を作成して被告の認可を受けなければならず、その終了後に財務諸表を被告に提出してその承認を受けなければならないほか、長期や短期の借入金をし、鉄道建設債券を発行するについても被告の認可を受けなければならないものとされ、その重要な財産の譲渡等をしようとするときも被告の認可を受けなければならないものとされている(同法三五条一項、三六条一項、二四条一項、二六条一項、二七条一項、二九条一項、三二条)。
右各規定によれば、同法は、公団を、右(一)のその目的にかんがみ、実質的に国との間に一体性を有する組織とし、被告の下級行政機関であるのと同様にその監督に服させることとしたものということができる。
(三) 全国新幹線鉄道整備法によれば、新幹線鉄道の建設について、被告は、鉄道輸送の需要の動向、国土開発の重点的な方向その他新幹線鉄道の効果的な整備を図るため必要な事項を考慮し、建設線を定める基本計画を決定しなければならず、建設線についてはその営業主体及びその建設主体を指名することができ、右の建設主体の指名は、公団又はその他の法人のうちから行うものとされている。そして、被告は、同法五条一項の調査の結果に基づき建設線の建設に関する整備計画を決定しなければならず、これを決定したときは、建設主体に対し右整備計画に基づいてその建設線の建設を行うべきことを指示しなければならず、建設主体は、右の指示により建設線の建設を行おうとするときは、整備計画に基づいて、路線名、工事の区間、工事方法その他同法施行規則二条一項各号に掲げる事項を記載した建設線の工事実施計画を作成し、被告の認可を受けなければならないものとされ、これを変更しようとするときも同様とされる(同法四条一項、六条一項、三項、七条一項、八条、九条一項)。
右各規定及び同法一条の定める同法の目的によれば、同法は、被告が、右の目的のもと、同法四条一項の定める事項を考慮しつつ高度に政策的な見地から、建設線の整備計画及び基本計画を決定した上、これに基づいて建設主体に建設を指示し、その認可を経た工事実施計画によって建設工事をさせるものとしているということができる。
(四) しかして、右(二)及び(三)に判示したところを併せ考えると、公団が建設線の建設主体として指名された場合においては、公団は、建設線の建設に関する限り、いわば国の事務を代行する機関としての性格を帯び、被告の下級行政機関と同視されるべきものと解され、同法九条一項に基づく被告の工事実施計画の認可は、被告が実質的にはその下級行政機関である公団に対し、これを監督するための手段として、右工事実施計画が右整備計画等と整合するかどうかを審査し、その整合性を承認する行為であると解される。
そうであれば、本件認可は、本件工事実施計画を確定させ、公団が本件新幹線の建設工事に着工することを法律上可能とはするものの、それは国の行政機関の内部に留まる効果に過ぎず、これによって直接国民の権利義務又は法律上の地位に影響を及ぼすに至るものではないから、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たらない。
3(一) 原告らは、本件認可がその住民として有する地方公共団体の財政運営等を監視する権利に影響を及ぼすと主張する。しかし、原告らが納税者として地方公共団体の財政運営等について監視し、又は必要に応じて然るべき手段を講ずべきことを求めることは、地方自治法二四二条や同法二四二条の二のような法律上の制度が設けられて初めて可能となるのであって、このような法令の規定を離れて一般的に原告らが、そのような権利の実現を図ることができるものではない(行政事件訴訟法四二条参照)。本件認可に関わる法令において、原告らのそのような権利の実現を可能とするような法律上の制度が設けられていないことは明らかであるから、原告らのこの主張も本件認可の処分性を基礎付けるものとはいえない。
(二) 原告らはまた、新幹線鉄道の建設工事に至る各段階のうち行政上の認可処分がされるのは、全国新幹線鉄道整備法九条一項による認可のほかにないから、本件認可は、公権力の行使に当たる事実上の行為として行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為である旨主張するが、右認可の性質は右2(四)に判示したとおりであり、右判示に照らせば、右の認可が公権力の行使に当たる事実上の行為に当たらないこともまた明らかであるから、右の主張は失当である。
(三) 原告らはさらに、原告らは本件認可によりその土地賃借権を失い、又は居宅を本件新幹線の騒音にさらされるから、本件認可は原告らの権利に影響を及ぼすものであって、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる旨主張する。
しかしながら、本件認可の効果は、右2(四)のとおり、本件工事実施計画を確定させ、公団が本件新幹線の建設工事に着工することを法律上可能とすることに尽きる。一方、本件新幹線の建設工事によって原告らがその財産権を失い、又はその行使を制限させることがあるとしても、これは、同法一〇条に基づく行為制限区域の指定、土地収用法に基づく権利取得裁決等の効果によるところであって、本件認可の効果と直接に関わるものではない。また、原告らの居宅が本件新幹線の騒音にさらされることがあり得るとしても、これは、本件新幹線が現実に建設されて開業に至った場合において事実上生ずることのある被害に過ぎず、かつ本件認可は住民にそのような被害を受忍すべき義務を課するものではない。したがって、右の主張は失当である。
4 そうすると、本件認可は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たらないから、本件訴えは不適法である。
三 以上によれば、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 長屋文裕 裁判官石原直樹は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 中込秀樹)